学際大規模情報基盤共同利用・共同研究拠点

採択課題 【詳細】

jh240011 流動生態系シミュレーションシステムによる水環境評価のための標準化プラットフォーム構築
課題代表者 松崎義孝(国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所 港湾空港技術研究所)
Matsuzaki Yoshitaka (National Institute of Maritime, Port and Aviation Technology Port and Airport Research Institute Marine Environment Control System Department Marine Pollusion Management Group)
概要 1) 研究の目的・意義 背景 沿岸域では様々な開発行為が行われているため、数値シミュレーションによる水環境への影響の評価が非常に重要となっている。しかし、水環境数値シミュレーションモデルはまだ研究発展段階にあり、環境影響評価を行うための統一的なモデルが存在しない。そのような状況ではモデルの構成やシミュレーション実施者の力量によって結果が大きく異なる可能性がある。即ち、実現象を数値シミュレーションで適切に再現できない可能性があり、事業実施後に地域住民や漁業者の反感を招きかねない。 そこで、応募者らが開発した水環境の再現や予測を行うことの可能な水環境数値シミュレーションモデルとプリ・ポスト処理システム、パラメータ調整システムやデータ同化システム等が含まれるシステムである、流動生態系シミュレーションシステム:Ecological hydrodynamics simulation system of the Port and Airport Research Institute、通称「EcoPARI」の活用が期待される。EcoPARIは、これまで一般的にモデル化されてきた植物プランクトン→動物プランクトンという低次食物連鎖だけでなく、動物プランクトン→魚といった高次食物連鎖や、デトリタス→細菌といった腐食連鎖もモデル化しており、他の水環境数値シミュレーションモデルにはない特徴を持つ。また、EcoPARIは国土交通省を中心に委員会等で使用される等、行政から信頼性の高いモデルとして評価されている。 課題1 EcoPARIは高度な数値モデルであるが故、民間建設コンサルタントが使用している水環境数値シミュレーションモデルよりも10倍程度の計算機能力を必要とする。大規模な開発事業を行う際に必要となる環境影響評価を実施するのは国・自治体から委託される建設コンサルタントである。建設コンサルタントの多くは大型計算機を所有していないため、EcoPARIによる検討が困難な場合が多い。 課題2 水環境をシミュレーションするための生態系モデルは、多くの設定すべきパラメータがあり、それらを客観的に決定する手法がないため、ともすると誤った条件設定になりかねない恐れがある。よって、応募者はデータ同化と遺伝的アルゴリズムという手法で、パラメータを客観的に決定するためのシステムをEcoPARIに組み込んでいる。しかしながら、パラメータ調整システムは大規模アンサンブル計算(データ同化)、あるいは大量の繰り返し計算(遺伝的アルゴリズム)が必要であり、効率的に研究を進めるためには大型計算機を活用したパラメータ調整システムの構築が必要である。 課題3 これまで応募者らはリアルタイム水環境数値シミュレーション、いわゆる「海の天気予報」のためのシステム構築を行い、現場対応を行う国土交通省等に対する情報提供を行ってきた。近年はモニタリングポストや衛星データといったリアルタイムに収集できる観測値が充実しつつあるため、観測値と数値シミュレーションモデルを融合する手法であるデータ同化による水温、塩分、溶存酸素、栄養塩などの高精度予測に関する研究開発に取り組んでいる。即時予測を行うためには高速に演算し、観測データの収集・解析を処理できる大型計算機とデータ集約基盤の活用が必要となる。 目的 以上のような背景を踏まえ、本研究では基盤となるEcoPARIを開発してきた国研、環境分野の技術開発を得意とする建設コンサルタント、高速化を得意とする大学・ソフトウェア開発会社を含めた学際的共同により、水環境数値シミュレーションを実施するマルチプラットフォームを構築する。 実務面の意義 公共事業の正確な環境影響評価の実施のためには、客観的な数値シミュレーション結果を得られるEcoPARIの民間企業を含めた幅広い利用と、スパコンやGPUを使った高速化による客観的なパラメータ調整が不可欠である。また、構築したプラットフォームは官民を含む技術者・研究者による使用が可能となるため、幅広い利活用が見込まれる。さらに、開発された「海の天気予報」は研究者や行政担当者のみならず、将来的には広く国民を含めて活用されることを目指している。 学術面の意義 データ同化や遺伝的アルゴリズムといったシステムを沿岸域の水環境数値シミュレーションに適用した事例はほとんどなく、この研究の世界的トップランナーである応募者らによるパラメータ調整システムの構築は、正確な水環境数値シミュレーションの実施のためのブレークスルーとなる。 2) 当拠点公募型共同研究として実施する必要性 研究開発には、国研、建設コンサルタント、大学、ソフトウェア開発会社の学際的共同が不可欠であり、異なる組織が連携して研究開発を進めるにはネットワークを介して使用できる計算機基盤が必要である。また、データ同化及び遺伝的アルゴリズムを使用したパラメータ調整や観測値をネットワークで取り込むリアルタイムシミュレーションは大規模計算/ネットワーク環境での実施が必須となる。
報告書等 研究紹介ポスター / 最終報告書
関連Webページ
無断転載禁止