学際大規模情報基盤共同利用・共同研究拠点

採択課題 【詳細】

EX24702 超臨界地熱発電を志向した超臨界地熱環境下での人工地熱貯留層造成シミュレーション
課題代表者 緒方 奨(大阪大学 工学研究科)
概要

近年、日本やアイスランド等の地熱資源が豊富な国においては,高いエンタルピ比をもつ超臨界水(温度374℃以上,圧力22.1MPa以上)を地下深部(地上から数km)のき裂性岩体から回収しエネルギーへと変換する新たな地熱発電(超臨界地熱発電)に関する取り組みが活発化しつつある.例えば,き裂が比較的少数であり,超臨界水を回収するには通水性が十分ではない岩体も大いに想定されるため,通水性の高いき裂システム,即ち,貯留層を岩体中に人工的に造成する手法(水圧破砕法)についての実験的研究が精力的に実施されており,これまでに,地下の超臨界水分布環境(超臨界地熱環境)を想定した温度・圧力下で岩石に超臨界水を円孔井戸から圧入する新たな水圧破砕法(超臨界水圧破砕法)により熱交換面積が大きく抽熱に有利となる微細な網状き裂システムが形成でき,岩石の通水性が103倍程増大した事例が報告されている.また,この様な網状き裂システムの造成を超臨界地熱発電の実施工時にも適用する方針が検討されつつある.しかし,地下深部での水圧破砕法の一回当たりの実施コストは非常に高価(少なくとも数億~数十億円程度)となるため,大規模岩体が対象となる実施工の場合,上述した室内実験で観察された様な微細な網状き裂システム(ミリ~センチ規模の長さ)が十分に発達・連結し,発電に供し得る大規模貯留層(メートル規模)が形成され得る可能性があるのか,といった点を数値解析により事前予察しておくことが極めて重要となる.しかし従来の数値解析手法では,超臨界水の圧入・浸透により無数の岩石き裂が網状に進展する過程を室内実験規模ですら計算不可能な状況であった.超臨界水圧破砕時の網状き裂造成を計算する上での最大の鬼門は,き裂発生・進展に伴う計算メッシュの煩雑かつ逐次的な更新処理であり,この処理を頻繁に行いつつ,水圧破砕という岩石破壊と流体の連成現象を解くことは現実的ではない.また,この様な逐次的なメッシュ更新処理は並列計算にも不向きであるため,大規模岩体への適用などは到底不可能であった.

他方,こういった状況を打破すべく精力的に研究を進めてきたのが研究代表らである.例えば,研究代表らは網状き裂の様な複雑き裂の造成をメッシュ更新無しで計算可能であり,並列計算にも適した新規手法(ノンリメッシュ型のExtrinsic Cohesive Zoneモデルを導入した有限要素法FEMと個別要素法DEMのハイブリッド手法)を開発している.さらに,そのプログラムコードに GPUgraphic-purpose-units)並列計算を実装し,岩石破壊と流体の連成スキームも導入することで,室内実験規模における超臨界地熱環境での網状き裂造成を世界ではじめてシミュレートすることに成功している.そして,この様な室内実験規模でのシミュレーションに続く研究ステージは実岩体規模への拡張であり,そのためにはスーパーコンピュータを利用した大規模計算が不可欠である.

本研究では,世界で研究代表らのみが開発に成功している網状き裂造成解析コードをスーパーコンピュータ上で実行し,地下深部超臨界地熱環境における人工貯留層造成過程に対する実岩体規模での大規模シミュレーションを実現する.これにより,地下深部の超臨界地熱環境における人工貯留層造成過程を仮想の計算機空間上で精密に表現(バーチャリゼーション)可能となり,貯留層を造成する実施工の際に何がどのように起こり得るのかを実寸大で高精細に具現化できる.その結果,これまでは,室内実験規模のみで観察されてきた網状き裂(ミリ~センチメートル規模の長さ)が実現場ではどのようなメカニズムで発達・連結を遂げ,発電に供し得る大規模貯留層(メートル規模)を形成するのか?そもそもその様な貯留層が形成可能なのか?高性能な貯留層を造成する上でどのような地層条件や施工条件が最適か?といった超臨界地熱発電の実現可能性を左右する未解明の重要な学術的問いに対する予察・解明が期待できる.

報告書等 研究紹介ポスター / 最終報告書
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