学際大規模情報基盤共同利用・共同研究拠点

採択課題 【詳細】

EX23302 星一つ一つを分解した矮小銀河シミュレーション
課題代表者 藤井 通子(東京大学大学院 理学系研究科)
概要

現在の宇宙に存在する銀河は、ビッグバン後のダークマターのゆらぎを基に、ダークマターの重力によって集またダークマターハローの中心で、主に水素から成る星間ガスが星を作ることによって形成してきたと考えられている。このような描像は、これまでの多くの数値シミュレーションによって確かめられてきた。一方、銀河一つ一つのような比較的小さいスケールの現象までシミュレーションと観測からわかる実際の銀河が一致しているかと言えば、そうではない。その一つが、「コア―カスプ問題」で、矮小銀河という比較的小質量の銀河において、銀河中心部のダークマターの密度分布が、平坦(コア)になっているか、中心まで密度が上昇し続けるべき乗分布(カスプ)になっているか、という問題である。これまでのシミュレーションは、矮小銀河の中心部分はカスプになっているという結果である一方、観測はいくつかの矮小銀河の中心部はコアであると示唆している。

 矮小銀河は星の数が比較的少ないため、星一個一個が銀河全体に及ぼす影響が大きく、中心付近のダークマターの分布をより中心部までシミュレーションから決定するためには、シミュレーションの分解能をこれまでより上げる必要がある。特に、大質量星が起こす超新星爆発や大質量星からの輻射のような、星間ガスを加熱し星形成を止める現象(「フィードバック」と呼ぶ)は、シミュレーションの分解能に左右され、特に、星の数が比較的少ない矮小銀河では、フィードバックが銀河全体に与える影響が、天の川銀河のようなより大きな銀河と比べて大きいと考えられている。一方、矮小銀河を含めた銀河形成シミュレーションは、星一つ一つをシミュレーション内で再現できる分解能に至っていない。そのため、星を複数まとめて一つの星粒子をして扱う手法が用いられている。この手法では、ある程度の質量の星をまとめる必要があるため、達成できる分解能に限りがある。シミュレーションの分解能を上げるには、この「複数の星をまとめる手法」を変える必要がある。

本研究では、星を複数まとめて星粒子とする手法ではなく、星一つ一つを分解した手法でシミュレーションを行う。しかし、星は軽いほど数が多く計算コストを増加させるが、軽い星一つ一つは銀河の進化にほとんど影響しないため、複数をまとめて1粒子として扱ってもよい。そこで、星が形成する時に、与えられた質量関数(観測から得られている標準的な質量関数)に従って質量を割り当てて星を生成し、太陽より軽い星に関しては1太陽質量にまとめ、大質量星が星全体に占める質量の割合は標準的な質量関数と変わらないようにする新しい星生成スキームを開発した。

 この新しい手法により、これまでよりも高い空間・質量分解能を達成できるようになった。この手法を取り入れた銀河形成コード「ASURABRIDGE」を用いて矮小銀河形成シミュレーションを世界最高分解能で行い、矮小銀河の「コア―カスプ問題」に答えを出す。

報告書等 研究紹介ポスター / 最終報告書
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